最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)883号 判決 1957年6月25日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人今長高雄の上告理由第一点について。
所論準備書面の記載と原判決理由とを仔細に対照してみると、結局、所論(1)(2)(4)の主張は、原審の認容するところとならなかつたことが、うかがい知られるから、原判決に所論の如き判断遺脱、理由不備の違法があるということを得ない。それ故論旨は理由がない。
同第二点について。
しかし、所論甲四号証(約束手形、記録一四丁)等によるも、未だ所論の抗弁事実を認めなければならぬものではない。されば原判決が所論の証拠に言及しなかつたことをもつて判断遺脱ということを得ない。論旨は理由がない。
同第三点について。
上告人は、一審以来甲三号証の成立を認めていたことは記録上明らかである(三四丁、一四五丁)。尤も、上告人が、原審に提出した昭和三〇年七月一日附準備書面(二四七丁)に、甲三号証の成立を争う旨記載していることは所論のとおりであるが、右準備書面は口頭弁論において陳述した形跡は記録上認められない。
また本人訊問の供述は、単なる証拠資料であつて、当事者の主張ではない。それ故、原判決が、甲三号証について成立に争がないと判示したのは相当であつて所論のような違法はない。
同第五点および第六点について。
原審挙示の証拠によれば、原審の認定は十分首肯できる。所論は、結局、原審の適法になした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用できない。
同第四点および第七点について。
(一) 所論は違憲をいう点もあるが、実質は単なる民訴法違背の主張に帰着する。
(二) 証人訊問の申請をした当事者が、その費用を予納しなかつた場合、相手方が予納したときは、裁判所は、右証人訊問の手続を採り得ると解するのが相当である。
なお、当事者の一方が適法に呼出を受けながら在廷しない場合においては、当該期日に証人訊問をなし得ることはいうまでもないし、また上告人は、所論証人訊問の終了後、右証人訊問の申請を撤回したのであるが、証人訊問終了後は、その申請を撤回することを得ない。
(三) されば、原審が、所論の証人を訊問し、これを証拠に採つたのは、なんら違法でなく、論旨は理由なきものである。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)